ボードレール語録

「悪」印象が強いけれど、決してそれどころではないボードレールの魅力を広めたい一心で。

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    『悪の華』 00・読者へ
     La sottise, l'erreur, le péché, la lésine,
     Occupent nos esprits et travaillent nos corps,
     Et nous alimentons nos aimables remords,
     Comme les mendiants nourrissent leur vermine.
     愚かさ、しくじり、悪徳、出し惜しみが、
     心を塞いで、身を煩わせ、
     乞食が集る虱を養うように、
     僕らは愛しい後悔を育む。

     Nos péchés sont têtus, nos repentirs sont lâches ;
     Nous nous faisons payer grassement nos aveux,
     Et nous rentrons gaiement dans le chemin bourbeux,
     Croyant par de vils pleurs laver toutes nos taches.

     悪徳は根深く、悔悛は姑息だ、
     告白ですっかり贖えたのだと
     汚点を全て安っぽい嘆きが洗い流したと思い込んでは、
     
    朗らかに泥道へと舞い戻る
       
     Sur l'oreiller du mal c'est Satan Trismégiste
     Qui berce longuement notre esprit enchanté,
     Et le riche métal de notre volonté
     Est tout vaporisé par ce savant chimiste.
     悪の枕のその上に、魅入る心をゆったりと、
     優しく揺すぶる
    魔王トリスメギスト
     
    この物知りの化学者には、
     意志という貴金属もすっかり煙にされる。

     C'est le diable qui tient les fils qui nous remuent !
     Aux objets répugnants nous trouvons des appas ;
     Chaque jour vers l'enfer nous descendons d'un pas,
     Sans horreur, à travers des ténèbres qui puent.
     
    手にした糸で人を操るこの悪魔のせいなのだ!
     胸糞悪い物にも魅力を見付け、
     
    怯えもなしに、悪臭放つ闇を渡り
     日毎着々地獄へ降ってゆくのは。

     Ainsi qu'un débauché pauvre qui baise et mange
     Le sein martyrisé d'une antique catin,
     Nous volons au passage un plaisir clandestin
     Que nous pressons bien fort comme une vieille orange.
     まるで老けた娼婦の迫害された胸に
     
    口付けしては齧り付く放埒者、
     腐った蜜柑のように力一杯搾り出し、
     人目を忍ぶ悦びを小道の脇で盗み取る。

     Serré, fourmillant, comme un million d'helminthes,
     Dans nos cerveaux ribote un peuple de démons,
       Et, quand nous respirons, la mort dans nos poumons
     Descend, fleuve invisible, avec de sourdes plaintes.
     百万匹の
    蛔虫のように、蠢き、歌う、
     
    悪魔の群の脳での酒宴、
     そして、鈍い嘆きの声と共に見えない川となって
     呼吸する度死は肺を落ちてゆく。

     Si le viol, le poison, le poignard, l'incendie,
     N'ont pas encor brodé de leurs plaisants dessins
     Le canevas banal de nos piteux destins,
     C'est que notre âme, hélas ! N'est pas assez hardie.
     強姦、毒薬、短刀、放火が、
     けれん味もない運命の月並みな画布を
     愉快な絵柄で彩らずにいるのは、
     それは
    心に、いやはや! 度胸が足りてないだけ

     Mais parmi les chacals, les panthères, les lices,
     Les singes, les scorpions, les vautours, les serpents,
     Les monstres glapissants, hurlants, grognants, rampants,
     Dans la ménagerie infâme de nos vices,
     しかしジャッカル、豹、山犬、
     猿、蠍、禿鷹、蛇、
     みすぼらしい
    罪悪の動物小屋で、
     啼き、唸り、吠え、這い廻る怪物達の中にも、
     
     Il en est un plus laid, plus méchant, plus immonde !
     Quoiqu'il ne pousse ni grands gestes ni grands cris,
     Il ferait volontiers de la terre un débris
     Et dans un bâillement avalerait le monde ;
     最も醜く、最も狡く、最も穢れた奴がいる!
     派手な身振りも派手な叫びも見せはしないが、
     地球を廃墟にしようと望み、
     
    欠伸に世界を呑み込もうとする、

     C'est l'ennui ! - l'œil chargé d'un pleur involontaire,
     Il rêve d'échafauds en fumant son houka.
     Tu le connais, lecteur, ce monstre délicat,
     Hypocrite lecteur, - mon semblable, - mon frère !
     こいつこそが退屈だ! ―空々しい涙に溢れた眼で、
     水煙草を吹かしながら断頭台を夢見ている。
     
    この感じ易い怪物を、読者よ、君は知ってるはずだ、
     偽善的な読者、―僕の似姿、―僕の兄弟!
    | 韻文詩(悪の華等) | 10:26 | comments(1) | trackbacks(0) |
    『悪の華』3・高翔
    池沼の上、谷の上を越え、
    山々、森、雲を越え、海を越え、
    太陽、天井の澄気もあとにして、
    星のきらめく天界の限りも突き抜け、

    私の精神よ、おまえは活発自在に動きまわり、
    そして波間にぽっかりとうかぶ泳ぎじょうずのように、どこまでも深ぶかとしたところに航跡を楽しげに残してゆく、言うに言えぬ雄の快楽に耽りながら。

    こういう不潔な悪臭のこもるところから、うんと遠くへ飛び去れ。
    上天に身を浄めに行け。
    そして物のすがた一切が消えうせた空間に充ちわたっている
    澄みきった焔を、特選の神酒のように飲め。

    倦怠と、はてしなく広がって充ちあふれている苦しみをあとにして、
    ちから強い羽ばたきとやらで羽ばたき、物音も絶えた、光のみなぎる上空に
    一気に飛び去りうるものは、みずからを幸福だと思え!

    ひばりのように、朝ごとに一息に、屈託なげに、大空にむかって飛び立つ想念に身をまかせる者、
    人界を下方に見はるかし、花々のことば、そのほか物いわぬものたちのことばを
    立ちどころに解する者は、その幸福に陶酔しているがいい!


    (杉本秀太郎・「ボードレール 詩の冥府」多田道太郎 編・筑摩書房)
    | 韻文詩(悪の華等) | 20:36 | comments(1) | trackbacks(1) |
    『悪の華』 72・陽気な死者
    蝸牛だらけの泥土の中、
    俺は自分で深い穴を掘ろう、
    そしてその穴の中に自分自身の古びた骨を悠々横たえ
    海に沈む鮫のように忘却の中で眠ろう。

    遺言書は憎たらしい、墓だって憎たらしい。
    世間の涙を求めるくらいなら、
    生きたまま、鴉でも呼び寄せ、
    私の汚れた肉体を余すところなく啜らせたい。

    蛆虫よ、耳もなく眼もない暗黒の伴侶よ、
    見ろ、自由で陽気な死者が君らの元へとやって来たのを。
    放蕩の哲学者、腐敗の子よ、

    崩れかけた私の屍の中を憚ることなく散策し、
    聞かせてくれ、この死者の中の死者、魂もない古びた体に、
    まだ苦労などというものが残っているかを。
    | 韻文詩(悪の華等) | 01:03 | comments(1) | trackbacks(0) |
    『漂着物』17・ 声
    僕が育った揺籃は本箱に凭せてあった、
    地味なこのバベルの塔には、小説やら、科学の書やら、寓話詩やら、
    ラテンの灰とギリシャの埃の一切が、ごっちゃになって並んでいた。
    僕の背丈は二つ折本そこそこだった。
    二つの声が僕に呼びかけた。狡そうで歯切れのいい
    一つの声は、こう言った、《地球は甘いお菓子だぜ、
    あんたの食欲を地球ほど大きくすることもわしには出来るというものだ、
    そうさえなったらしめたもの、あんたの楽しみに果はないから!》
    また別の声が言う、《おいでよ! おいでよ! 可能の彼岸、
    既知の彼岸、夢の中へ、旅に出ようよ!》
    この声は、どこやらから来ては歌う浜風みたいに、
    泣き虫の幽霊みたいに、耳ざわりは楽しいが、ちと怖かった。
    僕はそなたに答えたものだ、《行くよ! やさしい声よ!》と。
    この時からだ、切ないことに! 僕の傷、僕の不運が始まったのは。
    広大な人生の書割の背後、真暗な淵の底に、
    僕ははっきり異様な世界を見ることになり、
    われとわが炯眼の陶然した犠牲となって、
    靴を噛む蛇どもを引きずりながら歩いている。
    同じくまたこの時からだ、予言者に似て、僕がやさしい限りの思いで、
    砂漠と海を愛するようになったのも。
    悲しい時に笑い、嬉しい時に泣き、
    苦い酒に甘味があると思うようになったのも。
    真実を虚偽だと思い、天を見ていて、
    穴にはまったりするようになったのは。
    それなのにあの、「声」が慰め顔で僕に言う、《そなたの夢を
    大事になさい、賢者は狂人ほど見事な夢は見ていない!》


    (堀口大學・『悪の華』・新潮文庫)
    | 韻文詩(悪の華等) | 13:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
    『新・悪の華』 10・沈思
    私の苦悩よ、鎮まり落ち着くがいい。
    お前の望んだ夕暮れは、それはもうここに降りている。
    ある者には安らぎを、ある者には憂いをもたらし、
    薄暗い大気は都会を包んでいる。

    死すべき人らの卑しい群が、
    無慈悲な死刑執行吏「快楽」の鞭に追われ、
    奴隷の祝宴に悔恨を拾い集めにゆく間、
    私の苦悩よ、私に手を差し延ばせ。こちらへ来れ、

    彼らより遠く離れて。見たまえ、死んだ歳月たちは天の露台に、
    古びた着物を纏い身を屈めている。
    微笑を湛えた後悔は、水の底より浮かび出る。

    死を迎えた太陽は、橋弧の下に眠り込むのを、
    そしてまた、東洋にまでもたなびく長い屍衣のように、
    優しい夜の歩み寄る音を、聴きたまえ、愛しき心よ。
    | 韻文詩(悪の華等) | 00:21 | comments(0) | trackbacks(0) |
    『悪の華』 77・憂鬱
    私はまるで、雨降りばかりの国の王、
    富はあっても不能で、年若くして既に老けこみ、
    へつらう教師どもを蔑み、
    犬にもいかなる獣にも飽き果てている。
    何をもっても王の心は楽しまない、狩りの獲物も狩る鷹も、
    露台の向うで死にゆく民も。
    かつては好んだ道化師の奇怪な歌も
    残虐な病人の額を晴らせることはもはやない。
    百合の模様に飾られた寝台は墓と化し、
    仕える女ども、王であるならみなちやほやしたがる女ども、
    この若い骸骨より微笑を引き出そうと
    淫らな化粧を凝らすが甲斐はない。
    王のためには黄金すら作り出すあの学者にも、
    身体に巣喰った腐敗の種は抜き去れず、
    ローマ時代より伝わるあの血風呂、
    年老いた権力者の必ず思い至るあの沐浴みにも、
    麻痺した死骸は温まらない。
    何故といい、この身体を循るのは血ではなく、「忘却の河(レテ)」の碧の水だから。


    ()
    | 韻文詩(悪の華等) | 22:09 | comments(0) | trackbacks(0) |
    『悪の華』 39・(無題)
    おまえに贈ろう これらの詩を もしも私の名が
    幸いに 遠い時代の岸辺まで漂い着いて、
    大いなる北風の恵みを受けた船のように、
    ある夜 人間たちの脳味噌に夢を見させることでもあれば、

    おまえの思い出が、さだかならぬ言い伝えに似て、
    打弦琴のように読者の耳につきまとい、
    友愛の 神秘の鎖の輪によって
    尊大なわが脚韻にぶら下がるように残ってほしいから。

    呪われた存在よ、底知れぬ深淵から
    天の高みに到るまで、私のほかに、おまえに答えるものはない!
    ─おお おまえ、足跡もすぐに消える亡霊のように、

    足どり軽く まなざしも晴れ晴れと踏みにじるのか
    おまえをひどい女と呼んだ愚かしい人間どもを、
    黒玉の目をした彫像よ、青銅の額をした大天使よ!


    (安藤元雄・「悪の華」・集英社文庫)
    | 韻文詩(悪の華等) | 06:41 | comments(1) | trackbacks(0) |
    『悪の華』56 ・秋の歌 (全文)

    僕らはそろそろ冷たい闇へ沈む。
    さようなら、あまりに短かい夏の鮮やかで烈しい光。
    中庭の石畳へ落ちる薪の、陰気な音が聞こえ始めた。

    僕の中に怒りが、憎しみが、戦慄が、恐怖が、鞭打たれる労働が、冬のすべてが帰ってくる。
    僕の心はまるでもう、氷地獄に照る太陽か、赤く凍った塊とでもいうばかり。

    落ちる一つ一つの薪の音を、震えながら聴いている。
    断頭台を築く音よりも重苦しい。
    僕の心は言ってみれば、疲れ知らずの重い槌に打ち崩される城の塔。

    この単調な響きに身を揺すっていると、何か忙しげに柩の釘を打つ音を聞いているようだ。
    一体誰を葬るのだろうか? …昨日は夏、今日は秋!
    奇怪な音はまるで出発のように響いている。


    僕の愛する優しく美しい君の、切れ長で緑色したその眼の光も、もう皆苦々しい。
    君の愛情も、居心地のいい部屋も、暖炉の火も、あの海に輝く太陽には敵わない。

    それでも、僕を愛してくれないか、その優しさで!
    母親のように、恩知らずの男のため、意地の悪い男のために。
    恋人として、妹として、光輝く秋の、沈もうとする太陽の、束の間のやさしさで。

    季節は素早く過ぎ去って、墓だけが待っている。腹を空かせた墓だけが!
    ねえ、僕が君の膝に額を載せて、過ぎ去った白く輝いた夏を惜しみながら、柔らかな黄金色に輝く暮れ行く秋の光を味わうことを許してくれないか。
    | 韻文詩(悪の華等) | 10:31 | comments(0) | trackbacks(0) |
    『悪の華』 41・彼女のすべて
    あの子のどこが一番好きかと聞かれても、
    あの子のすべてが魅力を放っているから、どれかを特に選ぶわけにはいかないし。
    あの子の全部が好きだから、一体どこを好きなのかとか、そんなのちっとも分からないし。
    それでも、あの子はぼくを明るく照らしてくれるオーロラや、やさしく包んでくれる夜のよう。

    あの子の美しさを作り出してる、色んな魅力のハーモニーはあまりに細かく編まれているから、一体譜面に写せるわけもない。
    | 韻文詩(悪の華等) | 06:12 | - | - |
    『悪の華』 67・みみずく (全文)
    黒い水松のかげにひそんで
    みみずくが並んでとまり、
    まるで異国の神々みたいに
    赤いまなこを光らせる。瞑想中だ。

    身動きもせずにそうしているだろう
    あの愁いにみちた時刻がやってきて
    さて、斜めの日ざしをおしのけて
    闇があたりを覆うまで。

    その姿を見て賢者は悟る
    この世で避けねばならないのは
    あわてふためくこと 動くこと。

    過ぎ行く影にわれを忘れる人間は
    いつまでも背負い続けるのだ
    場所を変えようとした罰を。


    (安藤元雄・『悪の華』・集英社文庫)
    | 韻文詩(悪の華等) | 05:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
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