ボードレール語録

「悪」印象が強いけれど、決してそれどころではないボードレールの魅力を広めたい一心で。

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    『漂着物』17・ 声
    僕が育った揺籃は本箱に凭せてあった、
    地味なこのバベルの塔には、小説やら、科学の書やら、寓話詩やら、
    ラテンの灰とギリシャの埃の一切が、ごっちゃになって並んでいた。
    僕の背丈は二つ折本そこそこだった。
    二つの声が僕に呼びかけた。狡そうで歯切れのいい
    一つの声は、こう言った、《地球は甘いお菓子だぜ、
    あんたの食欲を地球ほど大きくすることもわしには出来るというものだ、
    そうさえなったらしめたもの、あんたの楽しみに果はないから!》
    また別の声が言う、《おいでよ! おいでよ! 可能の彼岸、
    既知の彼岸、夢の中へ、旅に出ようよ!》
    この声は、どこやらから来ては歌う浜風みたいに、
    泣き虫の幽霊みたいに、耳ざわりは楽しいが、ちと怖かった。
    僕はそなたに答えたものだ、《行くよ! やさしい声よ!》と。
    この時からだ、切ないことに! 僕の傷、僕の不運が始まったのは。
    広大な人生の書割の背後、真暗な淵の底に、
    僕ははっきり異様な世界を見ることになり、
    われとわが炯眼の陶然した犠牲となって、
    靴を噛む蛇どもを引きずりながら歩いている。
    同じくまたこの時からだ、予言者に似て、僕がやさしい限りの思いで、
    砂漠と海を愛するようになったのも。
    悲しい時に笑い、嬉しい時に泣き、
    苦い酒に甘味があると思うようになったのも。
    真実を虚偽だと思い、天を見ていて、
    穴にはまったりするようになったのは。
    それなのにあの、「声」が慰め顔で僕に言う、《そなたの夢を
    大事になさい、賢者は狂人ほど見事な夢は見ていない!》


    (堀口大學・『悪の華』・新潮文庫)
    | 韻文詩(悪の華等) | 13:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
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